【海洋大循環生まれだとどこが違うの?】
表層水とはまったく違う「深層水」。その世界最大にして唯一の深層海流といえるのが、「海洋大循環」です。
グリーンランド沖で沈みこんだ水は、海底に到達すると幅100キロメートルもの大きな流れとなります。その流れは地球の自転に沿いながら、海底をゆっくりと巡っていきます。進度は毎秒約10cm。本当にゆっくり、ゆっくりと巡っていくのです。その旅の終着点は、太平洋。まさしくハワイ島付近です。ここまで到達するのにかかる時間は、なんと約二千年!
日本近海にも「中層水」と呼べる流れはありますが、巡る年月はせいぜい百年単位です。そう考えると、二千年間も水圧を受け続けて作られた熟成度、まったく大気に触れないで作られた清浄性は、海洋大循環生まれの水とは比較になりません。
【どうしてそれが二千年前の水だとわかるの?】
「海水の年齢」を調べるには海水中に含まれる炭素同位体(14C)を分析します。最初に調べたのは1970年代、大洋縦断地球化学計画(Geochemical
Ocean Section Study, GEOSECS)というプロジェクトの調査でした。
その結果、世界の深層水でもっとも年齢が若かったのが北大西洋。それからインド洋、太平洋と進むにつれて次第に歳をとり、旅の終点となる北太平洋では二千歳にもなっていることがわかりました。
表層の海流は風で作られますが、深層海流は塩分濃度と水温で決まる密度の差で動きます。これは速度が非常に遅く、ほとんど計測できないところもあるほどです。そのため終点まで二千年もの年月を必要とするのです。二千年前といえば、キリストが生まれたころ。気の遠くなるような年月をかけて、やっと出会える水なのです。
【ハワイ島付近で深層水の旅が終わるのはなぜ?】
巨大な滝さながらに沈み込んだ流れは、海底に到達すると、海底の地形に沿い、また自転の影響を受けながら、北米大陸を南下していきます。さらに南極大陸に沿って流れながら支流はインド洋を北上。残りはオーストラリアの南を通過し、ニュージーランド東側の海底の地形に沿って太平洋を北上します。そして、ハワイ諸島付近の海底山脈にぶつかり「湧昇」を起こします。
深層水が上へ湧き上がる「湧昇」という現象は、地球環境を維持するうえで、なくてはならない自然現象です。湧昇のおかげで表層水は冷却され、強い日射し受ける赤道付近の海水でも際限なく熱くならずにすむのです。つまりは海洋大循環と湧昇のおかげで地球の気候は、極端な熱帯夜氷河期になることもなく、ゆるやかに保たれているというわけです。 |