海洋深層水をめる!
海洋深層水は「人類に残された、最後の宝物」とまで言われています。秘めたるパワーについて知れば知るほど、その言葉に納得できるようになるはず!改めて「海洋深層水」の役割について考えてみよう。


地球の海は、「表層水」と「深層水」に分けられる 地球生命の血液は「海洋深層水」

 海の健康診断をすると、東京湾、瀬戸内海など日本近海88か所の海湾はすべて要再検査・・・。海洋政策研究財団は先日、そんな調査結果を発表しました。この結果を聞くと、「やっぱり海の水を飲むのは心配」と思う人もいるかもしれません。でも、それは大きな間違いです。
 海に潜ると、200メートルを過ぎたころから太陽光が届かなくなってきます。千メートルを超えると、暗黒の別世界。海の平均水深は3800メートルといわれます。そう考えると、私たちが普段目にしている表層水は、海にとっては「膜」のようなものでしかありません。
 私たちの生命を生み出した、「海」。地球という生命体にとっての「血液」ともいえるのは、光の届かない海の水、まさしく「深層水」であるわけです。



海洋深層水の中でも
「海洋大循環」生まれが特上一級品!!



【海洋大循環生まれだとどこが違うの?】

 表層水とはまったく違う「深層水」。その世界最大にして唯一の深層海流といえるのが、「海洋大循環」です。
 グリーンランド沖で沈みこんだ水は、海底に到達すると幅100キロメートルもの大きな流れとなります。その流れは地球の自転に沿いながら、海底をゆっくりと巡っていきます。進度は毎秒約10cm。本当にゆっくり、ゆっくりと巡っていくのです。その旅の終着点は、太平洋。まさしくハワイ島付近です。ここまで到達するのにかかる時間は、なんと約二千年!
 日本近海にも「中層水」と呼べる流れはありますが、巡る年月はせいぜい百年単位です。そう考えると、二千年間も水圧を受け続けて作られた熟成度、まったく大気に触れないで作られた清浄性は、海洋大循環生まれの水とは比較になりません。


【どうしてそれが二千年前の水だとわかるの?】


 「海水の年齢」を調べるには海水中に含まれる炭素同位体(14C)を分析します。最初に調べたのは1970年代、大洋縦断地球化学計画(Geochemical Ocean Section Study, GEOSECS)というプロジェクトの調査でした。
 その結果、世界の深層水でもっとも年齢が若かったのが北大西洋。それからインド洋、太平洋と進むにつれて次第に歳をとり、旅の終点となる北太平洋では二千歳にもなっていることがわかりました。
 表層の海流は風で作られますが、深層海流は塩分濃度と水温で決まる密度の差で動きます。これは速度が非常に遅く、ほとんど計測できないところもあるほどです。そのため終点まで二千年もの年月を必要とするのです。二千年前といえば、キリストが生まれたころ。気の遠くなるような年月をかけて、やっと出会える水なのです。 


【ハワイ島付近で深層水の旅が終わるのはなぜ?】

 巨大な滝さながらに沈み込んだ流れは、海底に到達すると、海底の地形に沿い、また自転の影響を受けながら、北米大陸を南下していきます。さらに南極大陸に沿って流れながら支流はインド洋を北上。残りはオーストラリアの南を通過し、ニュージーランド東側の海底の地形に沿って太平洋を北上します。そして、ハワイ諸島付近の海底山脈にぶつかり「湧昇」を起こします。
 深層水が上へ湧き上がる「湧昇」という現象は、地球環境を維持するうえで、なくてはならない自然現象です。湧昇のおかげで表層水は冷却され、強い日射し受ける赤道付近の海水でも際限なく熱くならずにすむのです。つまりは海洋大循環と湧昇のおかげで地球の気候は、極端な熱帯夜氷河期になることもなく、ゆるやかに保たれているというわけです。




海洋深層水は
さまざまな分野で活用されています



深刻な水不足を解決

世界は今、深刻な水不足に直面しています。日本で暮らしていると、ピンとこないかもしれません。でも、他人事ではないのです。
 現在、世界人口のおよそ5分の1(12億人以上)が、安全な飲み水を手に入れられません。発展途上国ではそのために、毎年1000万人もの人が死亡するといわれます。特にアフリカを中心とした31か国は「超水不足国」。これが2025年には48か国に拡大するといわれます。
21世紀は「水を巡った争いが起こるだろう」とまで予言され、水を20世紀の石油に代わる国際的戦略物資と位置付けている国もあるほどです。
水不足の原因のひとつは、需要が飛躍的に多くなったこと。この半世紀で、水の需要は約3倍に増加しています。そのため持続可能なレベル以上の地下水が汲み上げられ、多くの国で地下水位が低下しています。世界の国では、井戸が枯れて住んでいた村を捨てる「水難民」と呼ばれる人が急増。エジプトのナイル川を見ても、河口の流れは細々としたものになっています。地球上の水は太古からほとんど変わることなく循環を繰り返していますが、陸上の水の汚染は進む一方です。
 「水の惑星・地球」といわれますが、97.5%は海水です。残りが淡水ですが、2.5%近くは氷河など固体で、河川や地下水は結局0.01%余り。そのわずかな水も汚染が進む今、膨大にある海水への期待が高まってきているのは必然的なことです。人類が「海洋深層水」を飲料水としておすそわけしてもらうことは、地球環境を守ることにもつながります。飲み水が貴重品であることを再認識しましょう。


エコエネルギーを実現!

 海洋深層水は環境にやさしい発電にも役立っています。表層水と深層水(800m以深)の間には、10〜25℃の温度差があります。その間にある熱エネルギー(海洋温度差エネルギー)を、電気エネルギーに変換するシステムが、海洋温度差発電です。化石燃料削減のための「エコエネルギー」として期待されています。
 ちなみにNELHA(ハワイ州立自然エネルギー研究機構)内の工場施設の冷房は、すべて海洋深層水によるもの。普通の冷房では冷凍機で7℃程度の冷水を作り冷房に用いますが、海洋深層水はとても低温で直接冷房に用いることができます。冷凍機による冷房に比べとってもエコで、大きな省エネルギー効果が得られます。

食生活を改革する!

 海洋深層水は「食」の未来も担っています。「水不足」は農業を直撃します。そんな中、海洋深層水を有効に利用した農業の研究が盛んです。例えば、硝酸、リン酸、ケイ酸などの無機栄養分に富む海洋深層水をトマトの水耕栽培に使ったところ、糖度が上がり、重量が増え、収穫量が上がった。また海洋深層水の低温性を利用すればハワイでも高原野菜の栽培ができる、などなど。
 また養殖に活用すれば、健康的な魚介類を大きなサイズに育てられるということで、NELHA内部にはヒラメやアワビ、ロブスターなど多数の養殖業者が進出していて、いずれも成功をおさめています。また人工塩にとってかわる、自然塩の生産も期待されています。

医療分野でも注目の的!

 海洋深層水は医療関係者からも注目の的です。例えば「免疫細胞(マクロファージ)を活性化する」「脂質の代謝を促進する」などの報告があり、医療分野で役立てるための研究が盛んに行われています。
 確かに海水が体によいことは、ヒポクラテスの時代から経験的に理解されてきていること。ヨーロッパでは昔からタラソテラピー(海洋療法)という治療法があり、海水、海藻、海洋性気候の持つ特性を、病気の治療、予防、健康増進に役立ててきました。
 人間の体液とほぼ同じミネラルバランスであるため浸透性に優れ、肌に馴染みやすい海洋深層水は、美容分野でも人気。成分だけでは計れない魅力に期待が集まっているのです。

戻る